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炭焼きに生きる人 暮しを創る人

目次

地産地消に対する情熱がつなげた、炭やき職人との出会い

聞き手:関さんと深谷さん、お二人はどんなきっかけでお互いを知ることになったのですか。

関さん:2010年3月、東海市上野台に「グリーンヒルズ東山」のモデルハウスが完成したんです。これが、タツミホームで初めて販売した「炭の家」なのですが、完成見学会の当日に東海ラジオが取材に入ったんですね。

深谷さん:その放送を、たまたま私、聴いておりましてね。炭と聞いたら、居ても立ってもいられなくて。でも、その時にちょうど用事があって行けなくて、兄に見に行ってもらったんです。

関さん:その、深谷さんのお兄さんが、ウチの従業員と知り合いだったんですよ。

深谷さん:びっくりしました。ひょんなことでしたね。で、詳しく話を聞くと、その時、関さんは地元で良質な炭を探していらっしゃった。われわれは、自分たちが作った炭の活かし方を模索していた。そこで、お互いの気持ちがつながったんです。それから、今のお付き合いが始まったんですよ。

関さん:「炭の家」というのは、もともと北海道のホーム企画センターと, 北海道立北方研究所が考案した住宅工法なんですね。炭の効果を上手く活用した新しいシステムに、自分の求めていた健康な家づくりの姿を感じて、タツミホームにも導入することにしたのです。ただ、独自の工夫を取り入れて、地元の風土に合った「炭の家」を提案したいという思いがありました。そこで、地元で作られている竹炭に目をつけたのです。「炭の家」は、一軒につき大量の炭が必要な訳です。安価で安定供給できる中国産もありますが、中国産の炭は使いたくありませんでしたし、もうひとつの選択肢として、岩手県産の木炭を使うこともできたのですが、せっかくならば地産地消の「炭の家」を作りたい。竹炭は、木炭よりも多孔質で、表面積が大きいんですね。つまり、木炭よりも高い効果を期待できるのです。私は、すぐにも知多半島の炭を探しに出かけました。実際、各地を回ってみると、思った以上に炭やきをしている方が多いということを実感しました。

深谷さん:確かに知多には竹炭を焼いている人はたくさんいますね。知多には竹林も多いんです。昭和30年代の頃と比べると、その面積は3倍ぐらいになっているそうです。けして良い意味ではないんですがね。

関さん:きちんと整備をしていないから、地下茎がどんどん広がってしまっているんですね。

深谷さん:そのとおり。大学の先生に、知多周辺の航空写真を見ながら話を聞いたんです。竹は切ってやらないと、地下の根は地上へ出られなくなってしまうでしょ。で、けっきょく地下にもぐって別の場所に出てきてしまうんです。今、竹林のほとんどは、手入れが行き届かずに荒れ放題ですよ。でも、その問題を炭やきで変えることができるかもしれんのです。

竹炭は、どこまでも地球にやさしい

深谷さん:その昔、竹薮というのは、人が番傘を差して難なく通れるぐらいに間引きをするものでした。京都のお寺を見るとそんな風景が浮かぶでしょ。竹と竹の間隔にゆとりがあって、竹の根元まで光が差し込んでいますよね。竹は、成長のスピードが早いから、ほったらかしにしておけば伸び放題になるのは当たり前。寿命は9~10年ぐらいで、青々としていた表皮は色褪せ、いずれは竹林の中で重なり合うように倒れていくのです。私たちは、人の土地には手を出せませんが、そういった光景を見ると悲しくなります。

関さん:深谷さんのように竹林を整備しながら、伐採した竹を竹炭にして活用するというのは、自然を維持するという観点から考えても、とても地球にやさしい取り組みなんですよね。

深谷さん:そう信じてやっとります。伸び放題の竹が、伐採して火を入れてやるだけで、色々な用途に使える竹炭や竹酢液に生まれ変わるんです。竹酢液には、害虫忌避の効果があります。竹炭はph9の強いアルカリ性で、酸性雨にさらされた土壌を中和して植物を活性化させる働きがあるんです。農業に使えば効果抜群です。私の畑では、農薬の使用量をぐんと減らすことができました。春夏の野菜なら、農薬なしでもしっかり育ちますよ。竹から生まれた2つの産物が、ひとつの畑でそれぞれの役割を果たしてくれる。これこそが、炭やきの魅力ですね。

関さん: 竹炭も竹酢液も天然由来のものですから、やっぱり安心感が違いますよね。それが家づくりの面でも、大きな役割を果たしてくれているんです。

聞き手:具体的には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

関さん:竹炭は吸着性が高く、調湿効果や脱臭効果があると言われています。マイナスイオンを発生させたり、遠赤外線効果などもあるそうです。

深谷さん:竹炭の効果については、研究段階のものが多いんです。大学の研究室でも注目されていて、この工房で作った竹炭や竹酢液も成分分析などをしていただいているところです。

聞き手:見学会などに訪れるお客様の反応はいかがですか。

関さん:実際のところ、お客様に対して、それほど炭の効果をアピールしているわけではありません。というのも、やはり実感する効果というのは、人それぞれ違うと思いますし、こちらのこだわりを押し付けるつもりはないんです。ただ、自分たちが住みたいと思う、自信を持っておすすめできる家であることが大前提だと思うのです。いつもよりおいしい空気を吸って、生活していただいて、そのなかでいつかきっとお客様ご自身で実感していただければいいのです。

深谷さん:そうですね。そういえば先日、炭やきのメンバーの娘さんが、マイホームをタツミホームさんの「炭の家」で建てるという話を聞きましたよ。

関さん:はい!そうなんです。実は、先日ご契約いただいたんですよ。

深谷さん:こんなふうにつながりが広がっていくことも、お互いにとって大きな収穫ですね。

炭やきは、窯の温度と時間の見極めが肝心。炭の匠、深谷さんの腕の見せどころ。

聞き手:竹炭や竹酢液はどんなふうにして作られているのでしょうか。

深谷さん:今日は、作業をひと通り紹介しますよ。窯に火を入れるのは、土曜日の7時半頃です。だいたい8時を過ぎると、工房のメンバーがそれぞれの用事を終えてここに集まってきます。みんなで翌週の窯焼き分の準備を始めるんです。伐採して乾燥させておいた竹を、窯に入る長さに玉切りして、それをさらに縦に割って節を取っていく。窯1回分200kgの竹を手分けしてやっていくんです。みんなでやれば、だいたい午前中には終わってしまいますよ。

関さん:で、お昼からは趣味の部になるわけですね(笑)

深谷さん:そうそう(笑)。みんなで食材を持ち込んでバーベキューをしたり、お酒を飲んでワイワイ話をしたりね。毎年2月の後半ぐらいには筍も出てくるから、採ってきて、ここで焼いて食べることもありますよ。みんながやりたいことを自由にやっておるんです。

関さん:そういうのって大事ですよね。長く続けていく秘訣だと思いますよ。やっぱり何事も楽しみがないとね。

深谷さん:いわゆる飲みニケーション、っていうやつです(笑)。で、夕方4時頃になったら火を小さくして、煙突は開けたままで一晩置いておきます。それから翌日の朝8時から9時ぐらいにもう一度来て、火を完全に止めるんです。焚口と煙突から酸素が入らないように完全に遮断すれば、火は消えてしまいます。あとは、自然冷却しておくだけ。4、5日経つとすっかり冷えているので、できあがった炭を取り出して、空になった窯に次回のために竹を詰めておく。そうしておけば土曜日の朝、すぐ火入れできるでしょ。これがひと通りのサイクルです。


聞き手:火を入れて数日間、窯を開けるまで竹炭の仕上がりがわからないんですね。

深谷さん:そうなんです。だから、毎回、火入れの時間、竹酢液が出始めた時間、火止めの時間を、すべてデータとして書き残しておくんです。それがあれば、仕上がりが悪かった時の原因を把握できるようになりますしね。回を重ねるごとに良くしたいじゃないですか。どんなことも経験の積み重ねですよ。

聞き手:窯の温度や火止めのタイミングを知る方法はあるんですか。

深谷さん:例えば、煙はね、最初は黒っぽいんですよ。それが、竹に含まれる水分が多いときは白っぽくなる。それから徐々に、黄肌色になって、紫色、最後には透明になって。その紫色から透明に変わった時が、火を止めるタイミングです。その見極め次第で、炭の仕上がりは随分と変わるんですよ。あと、温度変化にも気を遣いますね。火を入れたら窯の温度を急激に上げるのではなくて、ゆっくりじっくり窯全体に熱を回していくようにすることが大事です。

関さん:こちらの工房は、燃料に使うのも竹なんですよね。

深谷さん:ウチは「竹酢工房ウド」ですからね、何をするにも竹以外は使いませんよ。よそには、木を燃やしているところもあるようですが、ここには枯れた竹がいっぱいある。これを生かしてやらないのはもったいないじゃないですか。

関さん:炭やきは、まさに職人技ですね。深谷さんたち、出来上がった竹酢液や竹炭に対しても、成分分析をきっちりして、クオリティを一定の水準に高めようというこだわりも持っていらっしゃる。その姿勢にとても感銘を受けたんです。私たちだけじゃなく、深谷さんをはじめ、工房のみなさんの思いも、お客様に対して安心・安全に妥協のない住宅を提供するということにもつながっているんですよね。

深谷さん:お互いの思いがしっかり通じているからこそ、もっと良いものを提供したいという気持ちが湧いてきますよ。

取材後記竹酢工房ウドは遊び心満載のたまり場

竹酢工房ウドのメンバーのひとり、小野知久さんの本業は画家。深谷さんの提案で、タツミホームの関さんの似顔絵を描いてくださることに。やなぎの木を炭にした画用炭を右手にした小野さんは、サササッとなめらかな炭運びであっという間に完成させてしまいました。「先生が使っている画用炭は、竹炭を作る時と同じ方法ではできないんだよ。遊びで作ってみたの。焼き方は企業秘密だけどね」という深谷さんのひと言に全員が大笑い。ほかのメンバーもみなさんユニークで個性的。いつまでも話が尽きません。

地元のネットワークがあるからこそ、良質な竹炭が豊富に確保できる。

聞き手:「炭の家」一軒に使われる竹炭は、どれぐらいの量なのでしょうか。

関さん:一軒に500kgが必要です。

深谷さん:ウチの工房では、1度に200kgの竹を窯入れしても、出来上がるのは50kg。その10倍の量が必要なわけです。

関さん:やはり、それだけの量を1つの工房に頼ることはできません。そこで、深谷さんが「あいち炭やきの会」のネットワークで、知多にあるいくつかの工房に声をかけてくださったんです。知多の炭やき工房を何軒か訪ねた時にも、供給量の少なさも含めて、最終製品化の難しさを抱えていらっしゃるのを痛感していましたので、深谷さんの広いネットワークに助けていただきました。

深谷さん:「竹酢工房ウド」は、メンバーみんなでマイペースに楽しくやっていきたいという思いもあって、これ以上規模を大きくすることは考えていません。今の工房がちょうどいい。ふらっと遊びに来るように気軽に集まれる、そういうゆとりのある雰囲気でやっていきたいんです。それに、複数の工房と協力したほうが、いろいろなつながりが広がるとも思いますしね。

関さん:家一軒分の炭に込められたみなさんの労力を思うと、本当にありがたいと思います。

聞き手:ところで、深谷さんが参加していらっしゃる「あいち炭やきの会」というのは、どのような会なのですか。

深谷さん:平成15年に発足したんですが、愛知を中心に、岐阜、三重、静岡まで170~200名ぐらいの会員が在籍しています。みなさん、趣味程度にやっていらっしゃる方ばかりですよ。最近は、炭の効果が一段と注目を集めていて、組織としても活動が増えて面白くなってきているんです。毎年総会もありますし、勉強や研究に取り組むチャンスも多くて。

関さん:みなさんの活躍の場が増えることで、小さな炭やきの工房にも注目が集まるといいですね。

深谷さん:そうですね。最近の交流会や研究会では、外国人の参加者も見かけました。大げさな言い方かもしれませんが、竹炭とか竹酢液というのはこれから世界的に注目を集めていくのかもしれませんよ。

関さん:それは興味深いお話ですね。

深谷さん:会では定期的に会報を配っているんですが、私たちの竹炭が「炭の家」に使われているという記事も掲載したんですよ。会員のみなさんに工房の活動を知ってもらえたことで、炭の新しい活用法を提案できたのではないかと思っています。

毎日食べるごはんのように、竹炭で空気もとびきりおいしく。

聞き手:地元産の竹炭ならではの良さは、どんなところにあるのでしょうか。

関さん:タツミホームで「炭の家」をやっていこうと決めた段階で、先ほどもお話したように、中国産の竹炭か、岩手県産の木炭のどちらかを選択することはできました。ところが、中国産は食品も含めて偽装や異物混入などの事件が起こっていましたし、どういう行程で作られているのかわからないものを使うことに不安があったんです。とくに、「炭の家」というのは、健康にこだわった住宅。チラシには、長期優良住宅と明記しています。それなのに、使うものが不健康・不健全というのは問題外ですよね。自信を持っておすすめしたい家だからこそ、お客様には見えない内側にもこだわったのです。

深谷さん:やっぱり誰もが安心して暮らせる家に住みたいもんね。

関さん:そういう意味では、家は、食べ物と同じだと思ったんです。よく、地元で採れたものには、その地域のパワーみたいなものが詰まっていて、体に取り込むと良いって言いますよね。きっと、暮らしている土地の風土に合った体になっているんですね。それは、空気にしても同じことが言えるんじゃないかと。地元の竹を使って作られた竹炭を使えば、もっと「炭の家」の良さを高められるはず。しかも、地元に暮らす人の体に合った家を提供できるはず。

深谷さん:空気も地産地消、ですね。たくさんの人に実感してもらいたいですね、空気のおいしさ。

関さん:とくに家って、自分たちが帰る場所、子どもを育てる場所だから、健康につながるかどうかというのはすごく重要なことだと思うんです。話は少し変わりますが、古来の家というのは、自然のものだけで作られていたじゃないですか。ただ、すき間だらけの家だったんですね。すき間が多ければ換気も勝手にやってくれますから、結果としてシックハウスを心配することすらなかったんです。ところが、冬の寒さを解決しようと、気密性や断熱性を上げるためのシステムが導入された。その結果、住宅内の換気が上手くできないという問題が起きてしまったんです。

深谷さん:近頃は、子どものアレルギーもよく取り沙汰されていますね。

関さん:その上、暮らし始めたら、おのおのが家具や衣類を持ち込むことになる。とくに家具には、塗料が塗られていますよね。そこから目には見えない揮発性ガスが発生しているのです。
となると、住宅内の環境をさらに悪化させることにもなりかねないのです。

深谷さん:それが家の中でうまく換気できない…

関さん:怖いことですよね。「炭の家」なら、24時間住宅内の空気を入れかえる換気装置がありますし、さらに炭を通して空気を浄化することもできます。家の使い方というのは、住む人によって千差万別じゃないですか。ライフスタイルも人もそれぞれ。でも、家の中の空気をクリーンに保つことが前提にある家なら、誰もが健康的に暮らし続けることができると思うのです。

深谷さん:健康な暮らしを支えるという点でも、炭やきというのは責任ある仕事なんだね。

家づくりで、健康と安心と幸せを届ける。それが、タツミホームの夢。

深谷さん:先日、こんな出来事があったんです。名古屋大学の先生が、たまねぎを家に持ち帰ろうと車にたくさん積んでいたそうなんですね。で、その車に学生さんが乗ったら「先生の車、くっさいね~」って言われちゃったそうなんですよ。次に先生に会った時、学生さんから炭を分けて欲しいと言われていたんで、車に竹炭を5本ぐらい入れておいたんです。そうしたら、匂いがすっかり消えたってね。先生も学生さんもびっくりして、私に話してくれたんですよ。

関さん:竹炭5本で、ですか。炭の家には500kgの竹炭ですから、それは期待が膨らみますね。

深谷さん:いや、うれしかったですよ。竹炭の効能効果については、まだまだ立証されていないことも多くて、研究が進められている段階ですからね。これからが楽しみなんですよ。

関さん:私もとても楽しみです。

深谷さん:ウチの工房はね、もともと兄のアイデアで始まったんです。竹というのは、古くから抗菌作用があると考えられていたようなんですね。例えば、生肉を竹の皮で包んで保存したり、遠足のおにぎりを竹の葉で包んだりしてね。昔の家は、病気を家の中に入れないために必ず北側に竹薮があったとか。謂れもあるみたいなんですよ。その抗菌作用を農業に活かせるかもしれないと思ったんです。

関さん:それで、竹酢液を農薬の代わりに。

深谷さん:そうなんです。一坪菜園を趣味にしている仲間と一緒にね。いずれは、無農薬に近い方法で野菜を育ててみたいと思っていたんですよ。今の工房のメンバーは、その時から一緒にやっている仲間たちなんですよ。

関さん:もともと、みなさんの本業はそれぞれ違ったんですよね。

深谷さん:それがこの工房の面白いところですよ。趣味で始めたから、みんな遊び心があってね。楽しいもんですよ。

関さん:ここに来ると、それが良く分かりますよ(笑)。最初に建てた工房は、大府市の豊田自動織機の工場近くにあったそうですね。

深谷さん:工場の目の前にある交差点名が「ウド」でね。この工房の名前はそこから付けたんですよ。

関さん:タツミホームの「グリーンヒルズ東山」と目の鼻の先ですよね。

深谷さん:工場の拡張が決まって、今の場所に移ることになったのですが、きっと関さんとは特別なご縁があるんですね(笑)

聞き手:出会うべくして、出会ったような、そんなお二人なんですね。

関さん:私たちは、「炭の家」に出会うまでも、高気密・高断熱を軸にした工法の住宅を提供してきました。自信を持っておすすめしてきましたし、今もそれは変わりません。ただ、お客様による住まい方によって、住宅は変化していくものです。「常に清潔な空気を供給できる家とは」、「生活をより健康的にする家とは」。そんなことを模索していく中で出会ったのが「炭の家」でした。これにタツミホーム独自の工夫を加えて、新たに地元の風土にあった家づくりを進めていきたいと思っています。

深谷さん:竹炭の魅力を知ってもらうためにも、ぜひ「炭の家」を体験していただきたいですね。

関さん:はい、家族みんなのことを考えて、ずっと安心して暮らせる住宅ですからね。もうひとつ欲を言えば、「炭の家」をきっかけにして、知多の炭やき業にもっと注目が集まればうれしいですね。地域貢献につながる地産地消の家づくりをモットーに、これからも努めていきたいと思っています。

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